【2023年度版】 臨床工学技士 医療機器管理業務の紹介(実例あり)

臨床工学技士

本記事では、臨床工学技士が担う医療機器管理業務について紹介しています。医療機器の選定、調達、設置、保守、点検、修理、廃棄などの業務を指し、医療機器の安全な運用を支援する臨床工学技士の役割を解説しています。臨床工学技士に興味のある方や、医療機器管理業務に携わる方は、ぜひ参考にしてください。

臨床工学技士の医療機器管理業務に関しては多くのサイトで紹介されていますが、実際には一般的な内容が多いため、臨床で働くようになってから思っていた内容と違うことが良くあります。

その理由は、過去に臨床で働いていたため、その内容が古く、最新の現場を反映していないことや、転職サイトなどの臨床工学技士として従事したことが無い一般の方が紹介記事を書いていることが理由として挙げられます。

まるかつ
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この記事を書いている人

この記事では病院で働く臨床工学技士の医療機器管理業務について実例と合わせて具体的に知ることができ、臨床工学技士の業務を理解し、就活での小論文や面接対策、就職後のギャップ解消に役立てることができます。

読者のメリット

この記事を読むと以下のことが分かります。

  • 臨床工学技士の医療機器管理業務での役割
  • 医療機器管理業務の一日のスケジュール
  • 一般的な内容だけではない、医療機器管理業務の実体験とその内容

医療機器管理業務とは

医療機器管理業務とは、医療機器の選定、調達、設置、保守、点検、修理、廃棄などの業務を指します。これらの業務は、医療機器が正常に動作し、患者さんに安全に利用できるようにするために欠かせません。

また、医療機器の管理には、法律や規制に関する知識も必要です。例えば、医療機器の取扱いに関する法律 (医療機器法) や、医療機器の安全性・有効性を審査する制度 (PMDA) があります。これらの法律や制度に適合しなければ、医療機器を正しく運用することはできません。

臨床工学技士の一日のスケジュール

臨床工学技士の1日のスケジュールを紹介いたします。

外来業務が無い日

時間業務内容
8:30勤務開始、朝礼
9:00返却された輸液ポンプやシリンジポンプなどの清掃・使用後点検
10:00人工呼吸器使用中点検ラウンド
12:00休憩
13:00医療機器定期点検
15:00人工呼吸器使用中点検ラウンド
17:00終礼
17:30勤務終了

外来業務がある日

時間業務内容
8:30勤務開始朝礼
9:00脊髄刺激療法外来
12:00休憩
13:00脊髄刺激療法外来
16:00外来記録入力作業
17:00終礼
17:30勤務終了

用語の説明

用語説明
勤務開始ロッカーにてスクラブまたは白衣に着替え、タイムカードの打刻を行うこと
朝礼臨床工学科全体での連絡事項や、医療機器管理業務のメンバー間での昨日からの申し送りや予定業務などの確認を業務日誌を用いて行うこと
人工呼吸器使用中点検ラウンド病棟や集中治療室で治療をしている患者の人工呼吸器が正常に動作しているかや、破損や異常が無いかをチェックすること
清掃・使用後点検院内で使用された医療機器の清掃、点検を行い、再度院内の患者に使用できる状態にすること
医療機器定期点検定期点検期間にある医療機器をメーカー推奨の点検項目に沿って、点検を行う。オーバーーホールとは違う
終礼医療機器管理業務のメンバー間で当日実施した業務や全体への共有事項、翌日以降に対応が必要な業務などの確認を業務日誌を用いて行うこと
脊髄刺激療法脊柱管狭窄症などの手術後の後遺症で痛みが残っている患者に対して、体内に電気刺激ジェネレータと電極を埋め込み、直接脊髄を刺激する治療のこと
脊髄刺激療法外来脊髄刺激療法のために患者の体内に埋め込まれた電気刺激ジェネレータをプログラマというタブレットアプリを用いて調整を行うこと
外来記録入力脊髄刺激療法外来で対応した患者の記録をパソコンやタブレットに入力し保存すること

臨床工学技士の機器管理業務は病院ごとに実施している業務が変わりますが、基本的には上記の『外来業務が無い日』が基本になります。病院の臨床工学技士の方針として、患者に極力、直接関わらないというスタンスの病院もあるため、その程度によって、【メンテナンス業務】と【臨床業務】の業務割合が変わるイメージです。

私が勤めていた病院では、看護師、医師のマンパワーが少なかったため、臨床工学技士が直接的に患者に関わる業務内容でした。上記の「外来業務がある日」にある脊髄刺激外来業務では、主に大学病院や専門病院が行っていることが多く、実際には医師と、メーカー担当者で行っていることが多いのが現状です。本来であれば、メーカーは医療従事者ではないので、患者への医療行為を行うことができません。しかしながら、日本では、医師の指示で機械の操作を行っているという問題が依然としてあります。

臨床工学技士の役割

臨床工学技士は、医療機器管理業務の専門家です。具体的には、以下のような役割を担います。

医療機器の選定や調達に関する助言

医療機器の選定や調達には、患者さんの症状や診断方法、施設の設備などを考慮し、慎重な判断が必要です。臨床工学技士は、医療機器の特性や適正な使い方についての知識を持ち、医療現場に合わせた最適な医療機器を提案することができます。

医療機器購入や調達に関わった実体験

医療機器の購入や調達に関わった私の実体験を下記にご紹介いたします。

1.業務内容

  • コロナ患者が増えたことがあり、発熱外来にて使用する経皮的酸素飽和後測定装置を医療機器管理部で検討し、購入しました。

2. 実施した施設

  • 病床数500床の中規模病院(発熱外来にて使用)。

3. 実施した期間

  • 2021年5月。コロナ第5波による患者増加期間。

4. 実施した回数

  • 経皮的酸素飽和度測定装置のため、単回購入で十数個購入。

5. 実施した医療機器の種類

  • 経皮的酸素飽和度測定装置。

経皮的酸素飽和度測定装置とは、皮膚を貫通する光を用いて、血液中の酸素の量を測定する医療機器です。この装置は、患者さんが呼吸困難な状態に陥った場合など、酸素不足を早期に発見するために使用されます。

6. 実施した医療機器の問題点

  • コロナ患者が発熱外来に急増したことにより、退院後の経過観察用の経皮的酸素飽和度測定装置が不足した。

7. 解決策

  • 発熱外来、病院事務購入課と必要個数、予算について話し合いを実施した。そのまま患者へ渡すため、最低限酸素飽和度が測定できれば問題なし。そのため、購入費用をできるだけ下げられるようにメーカーへ見積りを実施し、新規購入を行った。

8. 改善点

  • 今回のような状況では、患者急増による機器の要否が決まったため、購入予測は立てにくかったと考えられます。患者増加の兆候があった際には、使用している機器の稼働状況を確認することが必要。稼働率が上がっていた場合、メーカーへレンタルができるか、または新規購入ができるかなどを確認しましょう。そうすることで迅速な機器管理の選定、購入が可能になります。

9. その他

  • 医療機器購入で選定をする場合、緊急度や重要度を元に考えます。
緊急性が高い緊急性が低い
重要度が高い重要度が低い

医療機器購入に関するポイントごとにそれぞれをどの枠内に入るのかを図解すると分かりやすいです。「緊急性が高く、重要度が高い」ものの項目を中心に購入の時の要件として考えるようにしましょう。

医療機器購入に関するポイント

  • 価格

病院の決められた予算内で購入可能な医療機器なのかどうか

  • 機能

病院が求める機能をその医療機器が要しているか

  • 利便性

実際に使用する患者やスタッフが使用しやすいかどうか。

  • 導入希望時期

医療現場ですぐに必要になっているものかどうか。

医療機器の使用方法に関する指導

医療機器は、専門的な知識と技術を持った人が正しく扱わなければなりません。臨床工学技士は、医療機器の使用方法に関する指導を行い、医療機器が正常に動作し、患者さんに安全に利用できるようにサポートします。

医療機器の使用方法に関する指導で考えるべき事項

  • 指導が必要な人の経験や業務歴、所属
  • 受講者に合った指導方法の検討(随時、勉強会、お知らせ)
  • 勉強会の開催頻度、時間、内容、方法
  • メーカー推奨の取り扱い方法の確認
  • 操作マニュアルの用意
  • トラブルシューティングをもとによくあるエラー、トラブルの紹介

医療機器の使用方法に関する指導の実体験

医療機器の使用方法に関する指導について私の実体験を下記にご紹介いたします。

1. 業務内容

  • 除細動器の操作方法について、勉強会を院内病棟向けに行った。実施時には除細動器本体と電極パッド、除細動器点検装置を用いて受講された看護師が操作できるように行った。勉強会の最後には簡単な確認問題を受講生に回答してもらい、その場でフィードバックを行った。

2. 医療機器の指導を実施した施設

  • 病床数500床の中規模病院。全病棟看護師向け

3. 医療機器の指導を実施した期間

  • 2か月をかけ、全病棟向けに開催。

4. 医療機器の指導を実施した回数

  • 5病棟/月に勉強会を実施。(全10病棟)

5. 医療機器の指導を実施した指導機器の種類

  • 体外式除細動器(2相式)

体外式除細動器とは、

体外式除細動器は、心室細動や心室頻拍などの異常な心拍を正常なリズムに戻すために使用される医療機器です。この機器は、電気ショックを発生させて心臓に送り込み、異常な心拍を正常なリズムに戻すことができます。体外式除細動器には、単相式と二相式があります。単相式は、一方向にのみ電気ショックを発生させるため、ショックの強度が弱く、二相式は、逆方向にも電気ショックを発生させるため、ショックの強度が強くなっています。

6. 医療機器の指導を実施した指導の問題点

  • 対面での勉強会を病棟向けに行う場合、受講生が日勤帯の看護師になるため、実施時間が限られるという問題点があります。

7. 解決策

  • 時間の制約があるため、対面でなければ実施できない除細動の実施などは確実に行うと良いでしょう。また、基礎知識などの情報については、別の方法で受講生に情報提供をすることが限られた時間を有効に使用できる方法と考えられます。

8. 改善点

  • 勉強会に参加する人数が多い場合、本番になって実際の除細動などを実施する時間が無いなどの状況があり得るため、勉強会前に参加人数を教えてもらい、どのぐらい時間がかかるかを確認しておくことが必要です。

9. その他

  • 医療機器に関する指導については、個々に行う場合と全体講習の場合があります。そのため、多くは勉強会を行うことが多い状況です。しかしながら、コロナ禍のこともあり、全体講習も感染対策上難しい場合やそもそも勉強会のそのものが実施する時間が無いこともあります。 E-learningなどを活用して、講習をするなど、ITを駆使した指導も活用することが有用です。

医療機器の保守管理に関する業務

医療機器は、定期的な点検やメンテナンスが必要です。臨床工学技士は、医療機器の保守管理に関する業務を担当し、医療機器が常に安全に利用できるようにします。

保守管理を行う医療機器については、院内にある医療機器が対象となっているため多岐にわたります。しかしながら、CT、MRI、検査装置など院内の専門領域で管理されている機器については、各部署で日常的に管理している現状です。臨床工学技士が院内すべての医療機器を管理することは現実的に不可能であるため、実際には、各部署管理されているものが、定期的な点検をされていることを確認することが重要です。

そのような点検記録が無い機器がある場合には、各部署で話し合い、点検頻度や点検者、点検記録管理について確認する必要があります。

医療機器の保守点検に関する実体験

1. 業務内容

  • 院内病棟に設置している生体情報モニター(バイタルサインモニター)の保守点検業務を実施。生体情報モニターの稼働状況を確認し、点検期間内に点検を実施できるようにスケジューリングを行い、破損や修理が必要なものに関しては、メーカーへ依頼を行った。

2. 保守点検を実施した施設

  • 病床数500床の中規模病院。生体情報モニターを設置している病棟や集中治療室が対象。

3. 保守点検を実施した期間

  • 生体情報モニターの定期点検は年に1回行っていたため、前回定期点検を行ってから1年を経過したモニターを1か月かけて点検を実施。

4. 保守点検を実施した医療機器の個数

  • 点検を実施した生体情報モニターの個数は3台/週。

5. 保守点検を実施した医療機器の種類

  • 生体情報モニター

生体情報モニターとは、患者さんの生命維持に必要なバイタルサインを測定し、表示する医療機器です。測定されるバイタルサインには、体温、脈拍、呼吸数、血圧、酸素飽和度などがあります。これらの値をモニターすることで、患者さんの状態を把握し、早期に異常を検出することができます。生体情報モニターは、病棟や集中治療室など、患者さんが多数集まる場所に設置されています。

6. 医療機器の保守点検の問題点

  • 今回の生体情報モニターの保守点検では、病棟特有の問題点があります。それは稼働中の生体情報モニターでは、モニタリング情報を持続してデータ収集をしなければならないため、点検のために電源を切ってしまうと、そのデータが失われる可能性があります。この点から、稼働中の生体情報モニターでは保守点検業務ができないという問題があります。

7. 解決策

  • 医療機器の保守点検を実施する場合には、対象機器の点検時期が近づいてきた時に、その稼働状況を確認し、点検スケジュールを立てることが重要です。点検時期をぎりぎりに設定してしまうと、当該の医療機器が使用中になってしまい、期限内に保守点検が実施できなくなってしまいます。

8. 改善点

  • 医療機器の管理ソフトを用いることで、病院内の医療機器の稼働状況をタイムリーに把握することが可能になります。

医療機器に関するトラブル対応

医療機器に障害が発生した場合、迅速かつ正確な対応が求められます。臨床工学技士は、医療機器に関するトラブル対応の専門家として、的確な判断を行い、適切な対応を行います。

医療機器に関するトラブル対応で重要なポイント

  • 使用者向けの取扱説明書があるか
  • 使用者が過去に使用した経験があるか
  • その医療機器に関するトラブルシューティングはあるか
  • その医療機器に関して過去に起こったことがあるトラブルは何か
  • 必要最低限行ってほしいことは何か
  • 説明書通りに使用できない場合、何が使用者のネックになっているのか(何が使用者を困難にさせているか)

医療機器管理業務でのトラブル対応の実体験

1. 業務内容

  • ネーザルハイフローの病棟での使用方法に関する問い合わせと、トラブルシューティングを実施。

2. トラブル対応を実施した施設

  • 病床数500床の中規模病院。呼吸器疾患を扱う一般床や集中治療室。

3. トラブル対応を実施した期間

  • 病棟や集中治療室でネーザルハイフローを使用しており、看護師から問い合わせがあった場合のみ。

4. トラブル対応を実施した回数

  • 問い合わせがあるかどうかは使用している看護師や患者の状況より変化する。

5. トラブル対応を実施した医療機器の種類

  • ネーザルハイフロー

ネーザルハイフローとは

ネーザルハイフローは、呼吸器疾患の治療に使用される医療機器です。通常の酸素吸入よりも高流量で酸素を送り込むことができるため、気管支炎や肺炎などの呼吸器疾患による低酸素血症の治療に有効です。ネーザルハイフローは、鼻から吸入するため、マスクを使用しなくても簡単に使用することができます。

6. 医療機器のトラブル対応の問題点

  • 医療機器のトラブル対応では、該当の医療機器についての問題を評価し、原因について突き止めて対策をしていく必要があります。しかしながら、患者の状態を介して機器の不調を訴える看護師や医師も少なくないため、機器の機能や構造だけでなく、機器を使用することによる患者への影響や病態生理についても知識が必要です。

7. 解決策

  • ネーザルハイフローでは、機器が作動しないという事象や、呼吸器回路の結露による問い合わせが多発したため、トラブルシューティングを用いながら、病棟看護師に説明を行いました。

8. 改善点

  • 医療機器には、その機器特有に頻発するトラブルが多く存在します。その機器と一緒に取り扱い説明書やトラブルシューティングを設置していても、現場の看護師や医師はそれを見ることはありません。臨床工学技士から説明や教育も大切ですが、患者を診ているのは医師や看護師であるため、医師や看護師の医療機器に関する関心や意識を改善する取り組みが必要です。 臨床工学技士は、その立場から積極的に助言をすることが重要です。

まとめ

医療機器管理業務は、医療現場における重要な業務の一つであり、医療の質を維持するために欠かせません。臨床工学技士は、その専門的な知識を活かして、医療機器の選定、導入、メンテナンス、トラブルシューティングなどを担当し、医療現場での安心・安全な医療の提供に貢献しています。

医療機器は、多種多様であり、その操作や管理には高度な知識が必要です。臨床工学技士は、その知識を身につけ、医療機器の正常な運用を確保するため、定期的なメンテナンスや点検を実施しています。また、医療機器に関する情報を収集し、新しい機器や技術の導入にも積極的に取り組んでいます。

臨床工学技士の活躍により、医療機器の安全性は確保され、患者さんが安心して医療を受けられる環境が整っています。このような背景から、臨床工学技士の需要は年々高まっており、ますますその役割が期待されています。

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